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大阪地方裁判所 平成元年(ヨ)829号 決定

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別紙当事者目録のとおり

主文

一  申請人らの本件仮処分申請をいずれも却下する。

二  訴訟費用は申請人らの負担とする。

理由

一  申請人らは、

1  被申請人組合の一九八九年三月一五日第四回中央委員会における別紙目録記載事項の決議の効力を停止する。

2  被申請人組合は、一九八九年三月一六日告示、同年四月四日投票の被申請人組合執行委員長久井寿一郎の退任請求にかかる一般投票に関し、被申請人組合の機関紙等を利用して右委員長の信任を組合員に呼び掛けたり、信任運動に金品を交付する等の便宜を供与してはならない。

3  訴訟費用は被申請人の負担とする。

との裁判を求めた。

二  その理由の要旨は、「被申請人は大阪府の職員によって構成される労働組合、申請人らはいずれも被申請人の組合員であり、被申請人組合には最高の議決機関である大会、大会に次ぐ議決機関である中央委員会、執行機関である執行委員会の三機関が設けられている。ところで、被申請人組合においては、一九八九年四月四日に執行委員長久井寿一郎の信任投票が行われることになったところ、同年三月七日に開催された被申請人組合の執行機関である執行委員会は、久井委員長の信任を得るため被申請人組合の機関紙を利用することはもとより組合費をも使用することを組織の方針として決議し、更に、信任投票の方法につき定めるべく同月一五日に開催された第四回中央委員会は、別紙目録記載の事項を決議したが、〈1〉右中央委員会の決議が中央委員会の決議事項の範囲外の事項について決議したものである点において無効であることはもちろん、〈2〉右執行委員会の決議及び中央委員会の決議は、組合員個人の、組合員として規約二五条四項及び一般投票規則により本部役員の信任投票を行う権利(リコール権)並びに右の信任投票に向けて組合員として自己の信念に従い他の組合員に対し不信任を呼び掛け支持を獲得する権利(リコール活動を行う権利)を侵害するものである点において無効であり、被申請人組合が右執行委員会の決議どおり行動し、右中央委員会の決議が執行されるならば、申請人らのリコール権及びリコール活動を行う権利は回復し難い著しい打撃を被る虞れがある」というにある。

三  よって按ずるに、裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法三条一項にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られると解され(最高裁昭和三九年行ツ第六一号同四一年二月八日第三小法廷判決・民集二〇巻二号一九六頁参照)、そうすると、自治的な団体内部の係争のごときは、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、団体の自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象とはならないものというべきである。

これを本件についてみるに、本件仮処分申請は、申請人らが、平成元年三月一五日に被申請人組合の第四回中央委員会においてなされた決議及び同月七日に被申請人組合の執行委員会においてなされた決議がいずれもその内容において無効であることを理由として、直接に、それぞれ、中央委員会の決議の効力の停止(申請の趣旨1)及び執行委員会の決議の執行の禁止(同2)を求めているものであることは、その主張自体から明らかであり、結局のところ、団体の構成員が自己の所属する団体の議決機関及び執行機関の各決議についてその内容の当否の判断を求めるものであることに帰着するが、右各決議の内容は、まさしく被申請人組合内部の問題として、その自主的、自律的な判断に任せられるべく、申請人らの一般市民上の権利義務ないし法律関係とは直接の関係を有するものではないことが明白であるから、申請人らの本件仮処分申請は、裁判所の司法審査の対象にはならない事件につき裁判を求めるものであって、不適法であるといわざるを得ない。

四  以上の次第で、申請人らの本件仮処分申請はいずれも却下を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 石田裕一 裁判官 大西嘉彦)

目録

一 久井委員長の圧倒的信任を勝ちとり、春闘などの諸課題を推進するため、福井副委員長を責任者とし、本部・支部・地区評役員と本部が指名する者で構成する「八九春闘勝利、久井委員長の圧倒的な信任で府職労の団結を守る推進本部」を設置する。

二 右事項に必要な経費の支出(組織強化対策費、予備費等)を行います。

三 また、すべての本部役員は、本方針に反する一切の行動を行わないことを明確にします。

当事者目録

申請人 雨宮靖憲

(他一三名)

右申請人ら訴訟代理人弁護士 北本修二

(他三名)

被申請人 大阪府職員労働組合

右代表者執行委員長 久井寿一郎

右訴訟代理人弁護士 河村武信

(他二名)

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